語録提唱

語録提唱

十牛図 第十

2019-07-30

第十 入鄽垂手   今日は最後の入鄽垂手です。鄽は町のこと。町に入って人を救う。   序 柴門(さいもん)独り掩(おお)うて、千聖も知らず。 柴の門戸を閉ざしたように、その境地はうかがい知れない。 前回の返本還源で自分の修行は終わりました。今日の処は衆生済度です。 薫習という言葉が有ります。花の香りが人につくように、その人が側にいるだけで、周りの人まで救われてしまう。 爺に逢うては爺相応、婆に逢うては婆相応、子供に逢うては子供相応。対機説法です。子供に仏教を説いても聞いてくれない。子供には子供の目線で接する。 何も難しいことは言わないが、なぜかその人が居るだけで雰囲気が違う。ごく自然に振舞って...

十牛図 第九

2019-07-30

第九 返本還源   序 本来清浄にして、一塵を受けず。 本来清らかであり、塵ひとつない。 本へ返り源へ還る。 衆生本来仏なり。このままで迷いの塵は一つもない。先週お話した、何もない処が本源のように思いますが、このありのままの世界こそが、本へ返ったところであり、源へ還ったところです。有に成りきった処が無で、そこを通っての有がここでは説かれています。   有相の栄枯を観じて、無為の凝寂に処す。 この栄枯の仮の世界をそのまま寂滅と観る。 この栄枯盛衰の世界に徹して、それを寂滅と見る。無一物中にすべてが含まれている無は、有に成りきった無です。前回の何も無い円相は今日の返本還源と表裏の関係にあります。...

十牛図 第八

2019-07-30

第八 人牛倶忘   序 凡情脱落し、聖意皆な空ず。 迷いの心は脱落して、悟りもなくなった。 もはや何も無い、無いということもない。悟りの牛はおろか、自分すら無くなった。本当の空です。ざわめく波は一つもない三昧の海です。   有仏の処、遨遊(ごうゆう)することを用いず、 仏の世界にも遊ばない。 この空には空すらありません。空にも囚われない。   無仏の処、急に須く走過すべし。 仏のいない処にも留まらない。 かといってこの世界にも留まらない。どこにも留まらない。もう姿すら見えない。   両頭に著せずんば、千眼も窺(うかが)い難し。 二辺に囚われなければ、誰も居所が知れない。 何処にもいない。誰も見...

十牛図 第七

2019-07-30

第七 忘牛存人   序 法に二法無し、牛を且(しばら)く宗と為す。 真理は二つない、牛を悟りに譬えている。 もはやその牛も忘れ去った境地です。悟りも忘れ去った境涯。昔から、味噌の味噌臭きは上味噌にあらず、悟りの悟り臭きは上悟りにあらずと言います。牛を、悟りをすっかり忘れ、しかも悟りを離れない。すりあげた境地です。   蹄(てい)兎(と)の異名に喩え、筌魚(せんぎょ)の差別を顕わす。 兎とわな、魚と筌の違いのようなものだ。 前前回の牧牛までは、鞭や縄も必要だった。しかし、もう牛すらいない。どうして鞭や縄が必要であろうか。経典の比喩に有るように、河を渡り終えたならば、もう筏は不要です。   金の鉱...

十牛図 第六

2019-07-30

第六 騎牛帰家   序 干戈(かんか)已(すで)に罷(や)み、得失還(ま)た空ず。樵子(しょうし)の村歌を唱え、児童の野曲を吹く。 身を牛上に横たえ、目に雲霄(うんしょう)を視る。呼喚(こかん)すれども回(かえ)らず、撈籠(ろうろう)すれども住(とど)まらず。 頌 牛に騎って迤邐(いり)として家に還らんと欲す 羌(きょう)笛(てき)声声(せいせい)晩(ばん)霞(か)を送る 一拍一歌限り無き意 知音何ぞ必ずしも唇(しん)牙(げ)を鼓(こ)せん     干戈已に罷み、得失還た空ず。 分別心との戦いも終わった、もう牛を捕まえるの逃がすのということも忘れた。 私たちは修行で一度は空の世界に、無の世界に...

十牛図 第五

2019-07-30

第五 牧牛   序 前思纔(わず)かに起これば、後念相随う。覚(さとり)に由るが故に以って真となり、 迷(まよい)に在るが故に妄となる。境に由って有なるにあらず、唯心より生ず。 鼻索(びさく)牢(つよ)く牽いて、擬議を容(い)れざれ。 頌 鞭(べん)策(さく)時時(じじ)身を離れず 恐らくは伊(かれ)が歩を縦(ほしいまま)にして埃(あい)塵(じん)に入らんことを 相い将(ひき)いて牧得すれば純和せり 羈鎖(きさ)拘(こう)すること無きも自ら人を逐(お)う     前思纔かに起これば、後念相随う。 一念起これば、次々と後を追うように念が湧く。 人間の年はまことに始末に終えない。念が後を引くのは、...

十牛図 第四

2019-05-9

第四 得牛 この十牛図、悟りを牛に譬えて、それを十枚の絵で説いています。 序 久しく郊外に埋もれて、今日(きょう)渠(かれ)に逢う。境勝(すぐ)れたるに由って以って追い難く、芳叢を恋いて已まず。頑心尚お勇み、野生猶存す。純和(じゅんな)を得んと欲せば、必ず鞭撻を加えよ。 頌 精神を竭尽(けつじん)して渠(かれ)を獲得す 心強く力壮(さか)んにして卒(にわか)に除き難し 有る時は纔(わず)かに高原の上(ほとり)に到り 又煙(えん)雲(うん)深き処に入って居す久しく郊外に埋もれて、今日(きょう)渠(かれ)に逢う。       久しく隠れていた牛に今日出会えた。 前回の見牛のところで、ついに見性しま...

十牛図 第三

2019-04-6

第三 見牛   序 声より得入し、見る処源に逢う。六根門着着(じゃくじゃく)、差(たが)うこと無し。 動(どう)用(ゆう)の中、頭頭(ずず)顕露す。水中の塩味(えんみ)、色裏の膠(こう)青(せい)。 眉毛(びもう)を眨(さつ)上(じょう)すれば、是れ他物(たもつ)に非ず。 頌 黄鸎(こうおう)枝上一声々 日暖かに風和して岸柳青し 只(た)だ是れ更に回避する処無し 森森(しんしん)たる頭角画けども成り難し   声を聞き、色を見て、ついに根源に気づいた。 聞声悟道、見色明心のところです。ついに見性しました。実に嬉しい。先月お話したところでは、まだ理解に留まっていましたが、ついにそこを体得しました。...

十牛図 第二

2019-04-3

第二 見跡           序 経に依(よ)って義を解(げ)し、教えを閲(けみ)して蹤(あと)を知る。衆器(しゅうき)の一金たることを明らめ、万物を体して自己と為す。正邪弁ぜずんば、真偽何ぞ分かたん。 未だ斯(こ)の門に入らざれば、権(か)りに見跡と為す。 頌 水辺林下跡偏(ひと)えに多し   芳草離披(りひ)たり見るや也(ま)たいなや 縦(たと)い是(こ)れ深山の更に深き処なるも 遼天の鼻孔(びくう)怎(なん)んぞ他を蔵(かく)さん 経に依って義を解し、教えを閲して蹤を知る。 経典により教義を理解し、教えを学び牛の足跡を見つけた。   この絵は、悟りを牛に譬えている。ここは頭で理解したと...

十牛図 第一

2019-04-2

第一 尋牛 序 従来(じゅうらい)失せず、何ぞ追尋(ついじん)を用いん。背覚(はいかく)に由って以て疎(そ)と成り、向塵(こうじん)に在って遂に失す。家山漸(ようや)く遠く、岐路(きろ)俄(にわ)かに差(たが)う。得失熾然(しねん)として、是非鋒起す。 頌 茫茫(ぼうぼう)として草を撥(はら)い去って追尋す 水闊(ひろ)く山遥かにして路(みち)更に深し 力尽き神(しん)疲れて覓(もと)むるに処無し 但(た)だ聞く楓樹(ふうじゅ)に晩(ばん)蝉(せん)の吟ずることを   この牛というのは、悟りの象徴です。ある牛飼いを主人公にして、その牛飼いが悟りを深めてゆく段階を、十枚の絵で表わしています。それ...