観音経普門品翻訳
大乗妙典観世音菩薩普門品偈
世尊妙相具 我今重問彼 佛子何因縁 名爲觀世音
妙相の仏にふたたびお尋ねいたします。仏の御子はなぜ観世音と呼ばれるのでしょう。
具足妙相尊 偈答無盡意 汝聽觀音行 善應諸方所
妙相の仏は,詩文をもって無尽意菩薩にお答えになった。所に応じた観音の行を聴きなさい。
弘誓深如海 歴劫不思議 侍多千億佛 發大清淨願
その誓願の深きことは,海の如く計り知れない。 多くの仏につかえて清らかな誓願を起こした。
我爲汝略説 聞名及見身 心念不空過 能滅諸有苦
我は汝にそれを説こう。観音の名を聞きまた姿を見て,心に念じて空しく過ごさなければ,諸々の苦しみを滅する。
假使興害意 推落大火坑 念彼觀音力 火坑變成池
危害を加えんとする者に火の穴におし落とされようとも,かの観音の力を念ずればそれは池となろう。
或漂流巨海 龍魚諸鬼難 念彼觀音力 波浪不能沒
大海原に漂い流され,龍や鬼神の難にあおうと,かの観音の力を念ずれば,浪に沈むことはない。
或在須彌峯 爲人所推墮 念彼觀音力 如日虚空住
高山より人におし落とされようと,かの観音の力を念ずれば,太陽の如く虚空にとどまる。
或被惡人逐 墮落金剛山 念彼觀音力 不能損一毛
悪人に追われ金剛山より落ちようとも,かの観音の力を念ずれば,髪の毛一本損なわれない。
或値怨賊繞 各執刀加害 念彼觀音力 咸即起慈心
刀を持った賊どもに囲まれようとも,かの観音の力を念ずれば,賊はみな慈悲心をおこす。
或遭王難苦 臨刑欲壽終 念彼觀音力 刀尋段段壞
王の迫害にあい,刑場で命が尽きようとしたとき,かの観音の力を念ずれば刃は折れよう。
或囚禁枷鎖 手足被杻械 念彼觀音力 釋然得解脱
手かせ足かせに囚われようとも,かの観音の力を念ずればその鎖より解き放たれよう。
呪詛諸毒藥 所欲害身者 念彼觀音力 還著於本人
呪いや毒薬で人を損なおうとする者があろうと,かの観音の力を念ずれば,災いはかえって本人に向かう。
或遇惡羅刹 毒龍諸鬼等 念彼觀音力 時悉不敢害
悪鬼や毒龍,様々な鬼神にあおうとも,かの観音の力を念ずれば,あえて害をなさない。
若惡獸圍遶 利牙爪可怖 念彼觀音力 疾走無邊方
もし獣に囲まれ牙や爪に襲われようとも,かの観音の力を念ずれば遠く走りさる。
蚖蛇及蝮蠍 氣毒煙火燃 念彼觀音力 尋聲自回去
蛇やまむし,さそりの毒が炎の如く燃えようとも,かの観音の力を念ずればその声に帰りさる。
雲雷鼓掣電 降雹澍大雨 念彼觀音力 應時得消散
雷電とどろき,豪雨が降りそそごうとも,かの観音の力を念ずれば天も静まる。
衆生被困厄 無量苦逼身 觀音妙智力 能救世間苦
人々が災厄に会い,苦しみがその身に迫ったとき,観音の妙智力はよくその苦しみを救う。
具足神通力 廣修智方便 十方諸國土 無刹不現身
不思議な力をそなえ,様々な方法で人々を救い,この世界中にその身を現さない所はない。
種種諸惡趣 地獄鬼畜生 生老病死苦 以漸悉令滅
様々な苦しみの世界。地獄,餓鬼,畜生の世界。生老病死の四苦。ことごとく消滅する。
眞觀清淨觀 廣大智慧觀 悲觀及慈觀 常願常瞻仰
真実の眼,清浄なる眼,広大なる智慧の眼,憐れみの眼,慈しみの眼。観音を仰ぎ尊びなさい。
無垢清淨光 慧日破諸闇 能伏災風火 普明照世間
汚れなき清浄の光,智慧の光がすべての闇を破り,よく災いの風火をしずめて世界を照らす。
悲体戒雷震 慈意妙大雲 澍甘露法雨 滅除煩惱焔
憐れみの体は戒雷に震え,慈しみの心は妙なる大雲の如し。不死の妙薬,甘露の教えの雨は,人々の煩悩の炎を消す。
諍訟經官處 怖畏軍陣中 念彼觀音力 衆怨悉退散
訴訟の法廷でも,軍陣の中でも,かの観音の力を念ずればすべての怨みは消えさる。
妙音觀世音 梵音海潮音 勝彼世間音是故須常念
妙なる音,観世音。その聖なる音は海潮音の如く世間の音に勝る。ゆえに観音を念ぜよ。
念念勿生疑 觀世音淨聖 於苦惱死厄 能爲作依怙
その一念に疑いを生じてはならない。
観世音は浄く神聖である。苦しみや死において人々のより所となろう。
具一切功徳 慈眼視衆生 福聚海無量 是故應頂禮
一切の功徳をそなえ,慈しみの眼で迷える者たちを見つめる。
その福徳は海の如く無量である。ゆえに観音を礼拝せよ。
爾時。持地菩薩。即從座起。前白佛言。
その時,持地菩薩が座より立ち上がり仏に申し上げた。
世尊。若有衆生。聞是觀世音菩薩品。自在之業。普門示現。
世尊よ。観世音菩薩品で説かれた観音の自在なはたらき,あまねく世界に姿を現す,
神通力者。當知是人。功徳不少佛説是普門品時。
その不思議な力について聞いたならば,人々は大いなる功徳をえるでしょう。
衆中八萬四千衆生。皆發無等等阿耨多羅三藐三菩提心
仏がこの観音経普門品を説いたとき,その説法の座にいた八万四千の人々は,みな無上の比類のない悟りに達した。