信心銘 第八

語録提唱

信心銘 第八

2019-03-30

其の所以を泯(みん)じて 方比すべからず
動を止むるに動無く 止を動ずるに止無し
両既に成らず 一何ぞ爾(しか)ること有らん
究竟(くぎょう)窮極 軌則(きそく)を存せず
心平等に契えば 所作倶(とも)に息む
狐疑(こぎ)浄尽して 正信調(ちょう)直(じき)なり
一切を留めず 記憶す可き無し
 
其の所以を泯じて 方比すべからず
存在を規定しなければ、定義しなければ、比べる事はない。存在といっても難しい。自分のこと、この体は有るでも無いでもない。これは生きても死んでもいない。生まれてすらいない、消滅もしない。男でも女でもない。すべてのレッテルをはがす。これが分別しないという事。一切の相対性を離れる。
 
動を止むるに動無く 止を動ずるに止無し
動きを止めようにも動きはない。静止を動かそうにも静止がない。お不動さんの境地です。衆生済度に働きに働いて、全く動いていない。だから不動、動かず。動いて動いて止まっている。止まっているようで動きの中にある。
 
両既に成らず 一何ぞ爾ること有らん
相対性を離れた境地では、元の一心は有無を超えています。
 
究竟窮極 軌則を存せず
究極の境地には、決まりごとが何もない。何も決めない、判断しない、分別しない。そして分かれてしまったものを一つにする。元の一心に還す。
 
心平等に契えば 所作倶に息む
心を本来の自然の状態に還せば、最早為すべき事はない。心を等しく見る。一つに見る。そうすれば、もはや何も為すべこことは残っていない。ただ掴まない。心の手を放す。そして何もしない。掴んだ手をただ放すだけ。生死、有無、善悪。こういったものを放す。
 
狐疑浄尽して 正信調直なり
疑いは全て消え去って、精神は調っている。自己と世界が一つ。もはやそこに、あれこれはない。
 
一切を留めず 記憶す可き無し
すべては必然に流れ、どこにも留まることはない。初心者の念に対する態度、追わず、払わず。心の手で念を掴まない。追うも払うも、掴んでいる点では同じです。この心の手を放すだけ。そうすると、どこにも留まらない。今目の前のプリントが見える、私の声が聞こえる。ころころと六根は働いている。それに任せきる。任せきったところは、何も留めません。