信心銘 第五

語録提唱

信心銘 第五

2018-11-15

両段を知らんと欲せば 元是れ一空
一空は両に同じ 斉(ひと)しく万象を含む
精粗を見ず 寧(なん)ぞ偏党あらんや
大道は体寛く 難無く易無し
小見は狐疑す 転た急なれば転た遅し
之を執すれば度を失し 必ず邪路に入る
之を放てば自然(じねん)にして 体に去住無し
性に任せて道に合し 逍遙として惱を絶す

両段を知らんと欲せば 元是れ一空
両段というのは、この相対的世界です。善悪、有無、損得、男女、左右。こう分別された、二つに分かれた世界が、相対世界。両段です。
相対的に出来ているこの世界は、本来、空である。空が分かれて、分節されて世界が展開している。

一空は両に同じ 斉しく万象を含む
空は相対と同じである。
その空という何もない世界が、すべてを含んでいる。
本来一つのものが、分かれてしまう。分かれた世界を元に戻すには、分かれたどちら側かに成りきる、徹底する。
善悪に分かれた世界では、善に成りきるか、悪に徹する。そこに自己があるようでは、駄目です。対象もない。
好き嫌い。自己なく好き、対象もなく嫌う。自分もなく、対象も忘れた好き嫌いです。誤解のないように。

精粗を見ず 寧ぞ偏党あらんや
精密だの粗雑だの、そんな相対的世界そのままに空である。
どこに偏りがあろうか。

大道は体寛く 難無く易無し
仏道は広々としていて、相対性を離れている。難しい易しいの相対性を離れている。

小見は狐疑す 転た急なれば転た遅し
すべての見方は小見です。世界を判断したとたん小見になってしまう。善い世界だ、悪い世界だ。自分は男だ、女だ。自分は生きている、死んでいる。自分は有る、無い。これが見方です、判断です、分別です、見解です。これを一度全部やめる。小さな見方をやめる。
そんな見方を担いでいては、見性を急げば急ぐほど、遅くなる。

之を執すれば度を失し 必ず邪路に入る
見方、判断、分別、見解。これらに執着している人は、必ず誤った道に入ってしまう。
自分の意識を握っている。念は追わず払わずです。どうしても湧き出る念を掴んでしまう。だから抑えよう払おうとしてしまう。念は追わない、払わない。ただ思いを握った手を放すだけ。見える、聞こえる、考える。そのまま、あるがままに、心の手を開く。

之を放てば自然にして 体に去住無し
放せば、どんな見方もしなければ、どんな分別もしなければ、去るの留まるのという相対性を離れることができる。
先ずはここからです。見たら見たまま、聞いたら聞いたまま、何の解釈もしない。判断しない。それが手を放した状態です。

性に任せて道に合し 逍遙として惱を絶す
もう任せきる。任せた世界には自分はいない。世界もない。そして仏道と合一する。
ゆっくり、ゆらゆら、何の悩みもない。